エッセイコーナー
771.新年随感「国宝を守れ」  2023年1月13日

1月10日発売の文春2月号に、「このままでは国宝を守れない」とする東京国立博物館館長による寄稿文が載っていた。
それによると、博物館を維持する為の年間光熱費は、今迄約2億円程度で辛うじて賄えたようだが、ロシアのウクライナ侵攻などに伴うエネルギー危機により、電気やガスなどの光熱費は今後2倍以上の4・5億円が必要になるとのこと。
また、博物館の維持には、文化財の劣化を防ぐ為の経費や修復に充てる予算が必要だが、与えられた運営資金では賄いきれず、寄付に頼っているとのことである。
その寄付も、情けないことに日本企業ではなく、バンク・オブ・アメリカからの寄付によって辛うじて賄われているのだそうだ。

そのことを所管の文化庁に相談したところ、財務省から補正予算への計上は認められないとして断られたと云うのだ。
東京国立博物館には普遍的な価値と後世に残すべき国宝89件、重要文化財648件など、12万件以上の日本の宝とも云うべき貴重な遺産が所蔵されている。
今後は更に、財源論等を巡り丁々発止と議論が展開されるべきだが、それにしてもこれほどまでに日本は貧しくなったのかと、情けなく思う次第である。
他にも緊縮財政に対する不平不満があちらこちらでつぶやかれている。

先日の日曜日、TBSテレビ系列のサンデーモンニングを観ていると、ジャーナリストを気取るコメンテーターが、あいも変わらず財政観や貨幣観を正すこともなく、「ジャブジャブにしてどうするんだ」と財政の緊縮を高唱していた。
地上波の番組で、影響力ある立場の人物が、財政錯誤も甚だしい論調を展開していたが、そんなことでは日本の国力向上はおろか、日本の未来は真っ暗だと云わざるを得ない。

今回の博物館への補正予算云々のみならず、科学技術を基盤とする技術立国日本の再生の為にも、大学や研究施設、研究者に対する充実した予算執行は必要不可欠である。
その為にも、正しい財政観、貨幣観を持つことが先ず以て先決であり、その為には先ず、事実、真実を見極めることが必要である。
「日本は借金大国であり、将来世代、孫子の代にまで借金を残すべきではない」とする、所謂、耳慣れた常識論として浸透しているが、諸外国(OECD32カ国及び中国)と比較した場合、日本の財政出動は一番低いとされるデータもある。

財政破綻の定義を、「日銀に大量の含み損が出て、売り叩かれて新規の国債が買えなくなる」と云った、中野剛志氏の言葉を借りると、封建主義的な解釈をする方がおられるようだが、100年前の金本位制当時ならまだしも、現在は管理通貨制のもとで日銀は通貨発行権を有し、含み損が出た場合でも通貨の新規発行、貨幣創造によって国債は何の問題もなく引受けが可能である。
そのように財政観や貨幣観を正し、好ましいとされるディマンドプル・インフレへの起爆剤として、ノーベル経済学賞受賞者のベン・バーナンキも唱えるような大胆な財政出動により、望ましい経済の好循環を目指すべきではないだろうか。

前出の東京国立博物館などへの補正予算の計上、財政の積極性については、全ての権能を有する財務省が一番の悪者とされている。
しかしながら、責任ある積極財政を推進する議員連盟、自民党の中村裕之衆院議員らが云うように、財務省設置法の第二章や財政法第四条などの法律に縛られている以上、致し方ないとの見方もある。
その為、立法府、つまり政治家の責任が極めて重大であると云わざるを得ない。

そのことをしっかりと肝に銘じていただき、国民主権の元に、世界で日本だけの国債60年償還ルールはもとより、個人が責任を取らなくても良いと云った無責任な国家賠償法も含めて、立法府の責任に於いてしっかりと議論し、早急に見直していただきたい。
何度でも記すが、財政観、貨幣観の錯誤は、文化財保護のみならず、食料問題を含む農業政策、教職員不足等による教育の問題。今話題となっている防衛費の財源問題等々、ありとあらゆる問題に弊害を及ぼしていると云う現実を直視し、問題解決に向けて早急に対処する必要があるのではないだろうか。 


 
                  15:04頃に注目  
フォト短歌「ロンブローゾ」  


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