エッセイコーナー
147.疲弊する中山間地域   2015年9月8日

農地中間管理機構について、当サイトでも過去に何度か取り上げた農水省所管事業のひとつだが、農業従事者や農業に関心を持つ人なら名称ぐらいは聞いたことがあるかと思うが、機構の立ち上げ目的は、「農地の有効活用の継続や農業経営の効率化を進める担い手への農地利用の集積・集約化を進めること」とある。
そもそも国は強い農業を掲げ、農地の集約化を図るなど農業経営の大規模化を推進している。その為、個々への支援は薄れ、大規模な農業組織や法人化を目指す集落営農組織に対する補助などの充実を図っている。大規模化の是々非々をここで問うつもりはないが、結論から云うと、日本の原風景が変わる可能性がある。

牧歌的で情緒豊かな里山(中山間地)から人は離れ、残されるのは耕作放棄地となった水田や畑に、桑の木などの落葉樹、杉などの針葉樹が生い茂り、熊や狸や狐など野生動物の棲家となるだろう。生態系も変わるに違いない。
そんな意味では、自然環境保護団体からは喜ばれそうな気もしないではないが、里山に暮らす素朴で純朴で柔和な人たちも、安定した食料需給のための農耕として、稲作用の水田や野菜を育てる畑も、今から約1万年以上も前から受け継がれ今日に至っているが、それも全て尊い自然の一部となっている筈だ。

当初、農地中間管理機構の発足がアナウンスされた当時は、里山に暮らす農民たちの多くが、喜び、期待し、歓迎したと思う。何故なら、機構の目的とする休耕地や耕作放棄地の所有者と、営農を志す若者ら担い手(就農希望者)との橋渡し役との位置づけだった。
ご周知のように、里山で農業を営む殆どの人たちは高齢化が進んでおり、それに加え、著しい米価の下落や重労働なども相俟って、子や孫の担い手がどんどん里山から離れ、離農する人たちが増えていると云うのが実態であり、即ち後継者不足が深刻な状況にあることから、維持保全が不可能であると云っても過言ではないのだ。 そんな状況下での、橋渡し役として鳴り物入りで立ち上がったこの農地中間管理機構に、注目し、期待を寄せない筈がなかった。

ところが、実際蓋を開けてみると(ある程度予測していたが)、新聞紙面上では就農希望者が多いにも拘わらず、耕作放棄地の所有者が貸し渋っている為、契約率は低調であると報じられていた。
確かに、貸し渋る地主が多いのも事実かも知れない。先祖代々受け継いできた大事な田畑を、「見ず知らずの者に貸したくはない」との思いもあるだろう。しかしながらその殆どが、平坦地で、耕作条件の良い場所ばかりであって、工業用地や住宅地として利用可能な土地なのだ。
その貸し渋りの傾向を解消する為に、農水省は耕作放棄地に対する固定資産税の課税強化に乗り出すとの意向のようだ。

しかしながら現実的には、前述の已む無い理由から、貸したい農家が沢山いるのも事実である。
高齢化や後継者不足により、「離農やむ無し」の人たちが大勢いる。
ところがその多くが、国土面積の73%を占める傾斜地の多い中山間地に暮らし、大規模化が難しい耕作条件のあまり良くない場所にあるのだ。それでは、里山、中山間地域は益々疲弊するばかりとなる。
確かに、借り手側からすれば、平坦な場所で、作業条件の良い圃場を借りたいのは誰しもであり、本音だろう。
また、例え条件の良くない中山間地であっても、やりようによってはそれなりの収益を見込めない訳ではない。しかしながら効率は間違いなく落ちることは否めない現実であり、「やむ無し」と云わざるをえない。
そんな現場での現実を知ってか知らずか、机上の空論ばかり唱える上から目線の苛政には、ただただ失望感を覚えるばかりである。

  199.農地中間管理機構のその後
154.農地中間管理機構の意義


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