エッセイコーナー
188.心の段差  2016年5月12日

あるライオンの絵に、思わず息を呑んだ。
と云っても実物の絵を前にして驚嘆した訳ではない。テレビ画面を通しての感動だった。
おそらく実物を前にすればその比ではないだろう。
絵を描く作者の動作をみて、また唖然となった。驚きと感動が更に倍増した。
筆を口で噛み、大胆なタッチで、それも見事な筆使いで描いていた。線一本一本に躍動感がある実に見事な絵であった。

そのアーティストは、岩手県盛岡市在住の松嶺貴幸氏(30)である。
彼は、
16歳の時にフリースタイルスキーの練習中の転倒事故で、首から下は動かない四肢麻痺(まひ)を患った。2010年、アメリカ留学時に出会ったジョニー・アレクソンさんの影響を受けて、マウスペインティングを始めたそうだ。フリースタイルスキーをしていたころのように、常にチャレンジし続ける心を持った「エクストリームペインター TAKA」として活動している。(盛岡経済新聞)

新聞の紹介にあるように、彼は四肢麻痺を患い、首から下は自由が効かない。
その為車いすでの生活を余儀なくされている。
その彼が、普段の生活で非常に不便さを感じているのが、段差だそうだ。
買い物に行くにも、散髪に行くにもいたるところに段差があり、車いすの走行に支障をきたすのを実感しているとのことである。
私たち健常者は日常生活をおくる上でまったく気にも止めなかったことだが、体験してみて初めて分かるものだろう。
勿論社会ではバリアフリー化が以前から課題とされ、ある程度は進んではいる。しかしそれでも未だ不十分と云わざるを得ない。

普段何気なく歩いていては気付くこともなかったことだが、この問題提起を意識しながら歩いてみると、「車イスでは結構厳しいな」と思う箇所が結構あるのに気付く。
国交省によるバリアフリー化の補助金制度もあり、車道部と歩道部、公共施設等への侵入箇所などを再点検し、制度の有効活用を図りながら段差解消に向けて、目先が利く地方自治体の積極的なる対応を期待したい。
また、民間レベル(特に一般の商業施設)でも、積極的にバリアフリー化を進めるべきところだが、如何せん費用対効果の問題からなかなかリフォームまで進展しないのが殆どではないだろうか。

そんなことを受け、嶺貴君は身障者の立場で社会にただ一方的に求めるばかりでなく、自ら段差を減らす努力をすべきとの思いから、携帯用折畳みスロープ「デザインランプ」を考案し、「ランプアップいわて」を立ち上げたそうだ。しかもデザインがまた実にカッコいいのである。
昨今の世の中、世界のあちらこちらで武力行使による暴力が展開され、また日本でも、一方的に傷めつける卑劣な言葉の暴力が蔓延するなど、非常にギスギスしているのが現状である。生き辛く、住みにくい世の中になってきたことを実感している。そんなギスギスした世の中だからこそ、足元の段差を解消する努力と、心の段差を埋めようと努めていきたいと思うのである。


フォト短歌「心の段差」  

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