エッセイコーナー
216.高所恐怖症  2016年12月3日

昨日は随分風が強い一日だった。木枯らしだろうか。木枯らしの条件は北風であることと風速が8m/s以上、今朝の新聞には最大瞬間風速24m/sを記録したとあったので、十ニ分にそれに該当するだろう。
看板が飛ばされたり、トタン屋根が吹き飛ばされた所もあったほどだが、「こがらし」ならぬ「おおがらし」とでも云おうか、そんな日は外での作業は危険極まりない。

先日、事務所の窓から高圧線の点検作業を目にしたが、穏やかな日で何よりだった。
とは云え、高所での作業自体凄いことだ。
いつもながら感心することしきりだが、私などは足がすくんで立ち上がることすら出来ないだろう。尊敬に値する。

学生時代、建築現場でアルバイトをしたことがある。比較的お金になるとあって、後先考えずに飛び込んだのだが、先ず最初の難関は仮設の足場を克服することだった。
3段目あたりまでは何事もなく上れたものの、4段目あたりから急に足が震え始め、足に力が入らなくなった。更に上段に上るのに、横ばいになりながらも支柱をしっかりと掴み、少しづつしか進めなくなったのである。
俗に云う高所恐怖症というやつだ。

職人さん方からは、「あの風体でなにをやってんだ」とでも云われていたのだろうが、そんなことを気にする余裕など到底ある筈もなかった。足がすくみ、恐怖に震えながらも引き返す訳にも行かず、それでも頑張ってなんとかかんとか目的地の屋上まで辿り着き、作業に取り掛かることができた。
しかしながら、一番怖かったのは上りではない。「行きはよいよい、帰りは怖い」終わってからの下りだった。
下を見ないようにと自分にいい聞かせるものの、意識をすればするほど目がいくのが心理である。かと云って目をつぶる訳にもいかない。

あの時ほど、お金に目が眩んだことを後悔したことはなかったが、慣れというものは恐ろしくもあり、有難くもある。
屋上まで平気で上れるようになり、さあこれからが本番だと云いたかったが、バイトの最終日まであと一日を残すのみだった。
あれから既に30余年、いま一度屋上迄足場を上れと云われても、おそらく足場の3段目ぐらいで足がすくみ、腰が立たなくなるのではないだろうか。


フォト短歌「電線工事」


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