エッセイコーナー
78.千載一遇の挨拶チャンス  2014年5月16日

予てより、是非お会いしたいと思っていた人物に偶然にもお会いする事ができた。
昨日、漏水検査の為、事務所周辺を巡回していた検査員より、「水道メーターが回ってますが、今出してますか?」との質問を受け、事務所の水周りを全て点検してみた。ところが、どの水道の蛇口も閉まっており、使っている形跡は全くない。しかしながら、にも拘らず水道メーターが回っているという事は、つまり漏水である。

外観からでは、何処が水漏れ箇所なのかは皆目見当がつかない。私のような素人目には特にだ。
役所の水道課に確認してみると、「昨年の9月頃から使用量が増えてますね」とのことだった。
普段、水道料は自動引落にしており、「震災の影響で電気料金が上がり、おまけに水道料も上がったのか」と震災以降、何やらかにやらと料金が上がった事に、已む無しかなとも思っていた為か、然程気にもとめていなかった。
いやはや、漏水との一言に愕然とし、昨晩は悶々としながら夜を過ごした。

一夜明けた今日、叔父のつてを頼りに業者を紹介して頂き、見てもらったところ、それ程深刻に考えることではなかったようだ。もっとも、未だ解決したわけではないので、ぬか喜びする訳にはいかない。そんな事などがあって、些か意気消沈気味の一日となったが、人生万事塞翁が馬、悪い事があれば必ず良い事があるものだ。

前述の偶然なる初見に、消沈気味の心がサッパリとすっ飛んだのだった。
仕事の合間を縫ってふと立ち寄った古本屋で、お目当ての本を物色していると、見覚えのある横顔が近くにゆっくりと寄ってきた。
「あれ誰だっけか?」と思いながらしっかりと見直してみると、本のカバーなどにあった写真を思い出した。
その人物とは、『イーハトーブ釣り倶楽部』や『底なし淵』、元『文學界』編集長の湯川豊さんらのエッセイが載る朔風社の『岩魚幻談』でお馴染みの、地元一関市在住の作家、村田久さんその人であった。

村田さんの小説は、私見で恐縮だが、自然描写が実に素晴らしい。特に自然を親しむ者の心をしっかりと捉えるその文章には、度々陶酔し、興奮しながら夢中になって読んだものだ。
私も釣りの日記を書く時などは良きお手本にさせてもらっている。もっとも、到底足元にも及ばないことは明々白々、言う迄もない。
村田さんの事は、私の、山菜やキノコの師匠である吉田喜春さんからある程度は伺っていた。
突然、憧れの人が目の前に現れたものだから、後先考えず、直ぐに行動に移すのは私の悪癖の一つである。
「あの…初めまして、村田さんでいらっしゃいますか?・・・」と始まった。

見ず知らずの、しかもガタイのいい(嘗ては、しかも身長は私の方が低いが)男からの唐突で不躾な挨拶にも拘らず、村田さんは微笑みながら優しく応対してくださった。 
その表情から、自然への畏敬の念を忘れず、そして心底から自然を愛する心優しさがいっぱいに広がっていた事が、一番印象的であった。




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