エッセイコーナー
692.日本沈没か日本消滅か  2022年5月17日

「日本沈没」「日本消滅」・・・どちらも空恐ろしい文言だが、日本沈没は今から50年程前に小松左京(SF作歌)の著書のタイトルだが、映画化やテレビドラマとしても話題を呼んだ。
また、日本消滅は世界の大富豪イーロン・マスク氏の発言として今ネット上で物議を醸している。
イーロン・マスクと云えば、宇宙開発企業スペースXや電気自動車テスラの創設者として知られる人物だが、環境問題を考慮して私の息子や息子の嫁さんの兄の車はテスラである。
そんなこともあり、多少なりとも縁を感じていたが、そのイーロン・マスクの発言に、いささか義憤を覚えずには居られなかった。しかしながらその理由は、日本の人口減少を憂いての発言だったとのこと。

確かに、日本は少子高齢化が顕著である。昨年10月時点での日本の人口は前年度より約64万人も減っている。
64万人と云えば、日本の都市人口ランキング令和2年8月の統計を参考にすると、22番目に多い船橋市の人口が64万1236人。例えは良くないが、船橋市がすっぽり消滅したようなものであり、大変な惨事である。
日本は特に、平均寿命が上がっているにも係わらず、人口減少が進んでいる。その原因は「出生率の低さ」と云うことになる。

ではなぜ、出生率が低いのか。
婚姻率の低迷や、例え結婚したとしても将来への不安、満足に子供を育てられるや否や、将来不安が大きな要因と考えられる。
ではその問題を解決する為にはどうしたらよいのか。
先ずなんといっても「生活力、経済力の向上」と云うことになるが、ではその経済力を上げる為には何が必要なのか。
云わずと知れた「景気回復」「好景気」である。

ところが、現状は長らく続くデフレ基調。将来不安はもとより、将来の見通しが立ち難いことは火を見るより明らかである。では、デフレを脱却する為には何が必要なのか。
本来なら民間の活力に期待し、自力での景気回復を待つ、と云うのが理想的であろう。
しかしながら現実はそう甘くはない。
民間が一生懸命頑張って売上を増やし、利益を上げたとしても将来に対する不安が解消されない限り、利益を更に増やし、いざという時の為に蓄えようとするのは至極当然な考え方である。

「内部留保が多過ぎだ」「もっと従業員の給料を上げるべきだ」などと他人事のように世間は云うが、企業側の責任者にとってみれば将来に対する不安を払拭出来ない限り、内部留保は最高の防衛手段であると考えるのが自然であろう。
ではどうしたらそれらの不安を取り除くことが出来るのだろうか。
その答えは一つしかない。
通貨発行権を有する政府が、民間の将来不安を解消する為の財政政策が必要である。
端的に云えば、国家主導による景気刺激策、財政出動以外にはないのではないだろうか。

ところが残念なことに、金本位制当時の貨幣観を未だに引き摺る経済学者や政治家が未だに多い。PB黒字化や財政規律の堅持など、緊縮財政論を未だに唱え、展開している。
勿論、財政規律そのものを放棄して良いとは決して思わないが、景気回復により、デフレ脱却以降の経済状況に応じて判断すれば良いのではないだろうか。
緊縮財政の一番の元凶は「財務省だ」との声があちこちから聞こえ、財務省解体論まで飛び出している。
しかしながら財務省は国の行政機関のひとつであり、法律に忠実、な筈だと思う。

問題は財務省を縛る法律に問題があるのではないだろうか。
特に、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と定められた戦後レジームの「財政法4条」である。
立法府による法改正が実現されない限り、問題は解決されないのではないだろうか。
1990年頃のバブル崩壊以降、約30年に渡る日本の経済は憂き目を見ることなく、他の先進国と比較すると明らかに弱体化している。このままでは益々衰退の一途を辿るばかりだ。
冒頭でイーロン・マスクが述べた様に、緊縮財政では人口減少の解消は疎か、日本の消滅は決して暴論でも極論でも、空論でもないということをしっかりと認識すべきである。

あと2ヶ月後の7月10日に第26回参議院選挙がある。
今後の日本の方向性が問われる重要な選挙であると私は認識している。
ウクライナ危機によって色んなことが争点になると考えられるが、前述したように、積極財政か或いは緊縮財政かによって、「斜陽」か「没落」か、はたまた「発展」か「衰退」かと云った観念的抽象論よりも、我々ごく一般の国民が「救われるか否か」、正しい貨幣観を持つと明らかだが、「民があっての国か」「国があっての民か」身近な具体論が問われる選挙になるのではないだろうか。
今回の参議院選挙を機に、今後日本の進む方向性が決まる重要な選挙になりそうな予感がする。いや、そうならなければいけない。


フォト短歌「夕まぐれ」  


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