エッセイコーナー
720.水田農業再生具体化とは  2022年8月25日

地元紙(岩手日日)投稿コーナーの論壇に、「水田農業再生具体化を」と云う興味津津の見出しが目に止まった。
寄稿者は千葉繁美さん85歳。
これから世界的な食糧危機が懸念されるなか、日本の農政に対して疑問を投げ掛けた投稿内容だが、共感の持てるエッセイを興味深く拝読させていただいた。
大枠として以下の3点が挙げられる。

1.ウクライナ危機にともなう食料安全保障について
2.水田活用の直接支払交付金について
3.農村の多目的機能について

1番目の食料安全保障問題だが、ロシアによるウクライナ侵攻により、戦禍が長引くに連れ、更なる世界的な食料危機が危惧される。
ウクライナは世界でも屈指の小麦の一大産地。国連などの仲介によって輸出の門戸が一時的に開かれたものの、ロシア軍による湾港への空爆など、今後も予断を許されない状況にある。
ただ、皮肉だが、そのことによってコメの需要が増える可能性もある。

そもそも日本は、瑞穂の国と云われるようにコメを主食とする稲作文化が脈々と継承されてきた。
しかしながら近年、そのお米文化から小麦文化に変わりつつあるのが現状だ。
とは云え、斯くいう私も、基本的には3食とも白米中心の食生活を送ってはいるが、パンも大好きである。
オヤツとしてよく食べていることもあって、決して小麦文化が悪いと云うつもりはない。
ただそもそも、瑞穂の国で小麦文化が勢力を拡大し始めたのは、敗戦によるアメリカの圧力により、学校給食などへのパン食の採用から定着したと云うことを忘れてはいけない。これもまた戦後レジームと云える。

そのことによってコメ離れが進み、日本のコメ農家は衰退の一途を辿っている。
決して高齢化の問題だけではない。コメ離れや価格の下落等により、後継者が育たないと云った現実がそこにあるのだ。
本来なら自給率を上げる為に、アメリカやフランス、ドイツやイギリスなど他の先進国の様に、農家への助成制度を充実させるべきところを、机上の空論による真逆の政策に力を注いでいるように思えてしかたがない。

2番目の水田活用の直接支払交付金の問題だが、コメ余りを理由に、人が食べるコメよりも牛や豚が食べる飼料米への補助や、野菜などへの転作に向けた助成制度を充実させている。
しかしながら紙面で訴えているように、「畑は排水」「水田は保水」を基本として土作りをするのが基本中の基本だ。
また、一度飼料用として、飼料用の専用米を作付けした後に、以前のように一般のうるち米を作付けすると云った場合、「品種の混入」と云った懸念が暫く続くことになる。それによって格付け等級の下落が懸念される。
それらのことから、「机上の空論である」と云わざるを得ないのである。

「木を見て森を見ず」ではなく、「森のみを見て木を見ない」と云った本末転倒な農業政策に他ならないのである。
山林の片側のみを確認出来るクーラーの効いた事務所の窓から、ガラス越しに上の空で眺め、山全体を見ているつもりでも、山の向こう側の火種には気づかないものだ。
その火種が風に乗ってあっとう云う間に山林全体に燃え広がる。燃え尽きて禿山になってしまえば、山が以前のように再生される迄にはかなりの時間を要する。

3番目の農村の多目的機能の問題だが、中山間地に於ける治水の重要性は決して軽視してはいけない。
山間地や中山間地の水田は雨水や湧き水を蓄え、河川の激流を一時的に緩和させるなど、山地間の水脈の受け皿となるダム湖の役割りを担っている。
水田と対をなす溜池や用水路もまた一時的に洪水を抑える役割りを果たしている。

日本の水田は中山間地及び平野部の水田を含めると約280万ヘクタール、約60億トンもの水量を溜めることが可能だと云われている。300箇所以上の洪水調整ダムの約4倍の貯水能力があるとも云われている。
また、水田に溜められた水は、涵養により地下水となり、その60%が河川に緩やかに放出されるとも云われている。
そのように、水の反乱、水害対策には中山間地での水田の存続が必要不可欠だと云っても過言ではない。
昨今、異常気象にともなう土石流の自然災害が多発しているが、その原因の一つとして、以上のことを念頭に置いた賢明なる農業政策に期待したいのだが・・・。

日本の食と農が危ない!―私たちの未来は守れるのか(上) 東京大学教授・鈴木宣弘


農は国の土台なり
防災対策の核心
防災対策の一環として


フォト短歌「穂孕み」


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