エッセイコーナー
538.赤のキングコング  2020年10月29日

岩手県奥州市の水瓶である堤体高127m、総貯水容量1億4千3百m³のロックフィルダム、胆沢ダム(奥州湖)が完成したのは平成25年11月。本格的な工事着手が平成5年2月、約20年の歳月をかけた大工事であった。
以前は堤体高53mの石淵ダムがあった。その石淵ダムの下流部から本流の胆沢川を横断し、前川の河口に抜ける隧道があった。現在は胆沢ダムにすっぽりと飲み込まれ水没している。
正式名称は猿岩隧道。延長696m、岩肌が剥き出しの素掘り隧道である。車がやっと一台通れるぐらい細く、電灯すらない狭いトンネルであり、灯りと云えば696m先から微かに見える自然光のみだった。

私は高校時代、渓流釣りに目覚め、時間を見計らっては渓流に足繁く通ったものだ。なかでも石淵ダム周辺にはよくきたものだが、その石淵ダムに流れ込む北上川水系胆沢川支流の一級河川「前川」がある。
その前川に一度行ってみたいと思っていたが、灯りの無い696mの隧道を抜けなければならない。当時高校生だったこともあり、移動手段は自転車か徒歩のみ、勇気がいった。
流石に一人では無理だと判断し、友人を口説き二人で猿岩隧道を抜けることにした。当時は「度胸試し」もあったように記憶している。
釣果の記憶はなく、恐怖心のみが記憶の断片として残っている。

前川を目指すには石淵ダムを迂回し、上流部から胆沢川を横断するルートもあったようだが、なにぶんにも自転車。遠巻きはきついことから隧道抜けを選んだと云う次第である。
ペダルを目いっぱいに踏み込み、脇目もふらず一目散に通り抜けたように記憶している。
現在、隧道を抱く猿岩を、赤や黄色、色とりどりのコントラストに包まれ、奥州湖面に彩りを添えながら赤きキングコングの様相を呈している。
今が丁度秋色の見ごろを迎えている。


フォト短歌「赤き猿岩」 フォト短歌「秋の焼石」

その他の写真>>       緑のキングコング「猿岩」>> 2020年5月17日更新分


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