エッセイコーナー
8.ダム理論の検証  2009年1月27日

日銀が金利の指標として参考にするのが、このダム理論である。
ではそのダム理論とはどんな理論なのか。
降った雨が直接ダムに溜まったり、降った雨が地下水となりダムに流れ込むとダムの水位が上がる。その水位が上がりダムが一杯になると放流して溜まった水を下流に流す。
ダムを大企業に例え、ダムに注ぎ込まれる水が大企業の利益に例える。
つまり大企業が利益を上げ、内部留保を増せば増すほど、社員にボーナスや給料の上乗せをして利益を還元すると言う理論だ。この理論に基づいて金利の引き上げをやったり引き下げをやるのである。

この理論はおおかたのエコノミストの支持を得ているようだ。ただ、その目論見が外れることもある。
例えば、最近の例でみると2007年の2月に金利を0.25%から0.5%に引き上げた。その後サブプライム問題に端を発し、リーマンの破綻、そして100年に1度と言われる経済不況に見舞われることとなり、金利の引き上げは失敗だったと言わざるを得ない。
正しく経済は生き物、生きていれば何時かは病気や怪我もするが、何時起こるのかは誰にも予測不可能である。
経済も同じことで、だからこそ政府の迅速な対応が必要となる。

また、ダム理論の中で、中心となるダム、つまり大企業側が溜まった水を何時放流するかは会社側の思惑によって決まる。今回の金融危機の下、非正規雇用者の切捨てが問題となっているなか、某超大手自動車メーカーでは内部留保が14兆円もありながら、膨れ上がった水位を下流に流そうとしなかった事が取り沙汰されている。
その要因としては次の3点が挙げられるのではないだろうか。

1、投資家への配当を優先する投資家至上主義 
2、国際競争が一段と激化しているなか、労働分配率を上げると競争力の低下が懸念される企業論理 
また、第3として大きなダムの下には第2第3の砂防ダムが存在する。
と言うのは大企業から溢れ出た水を下請けの中小企業や、その孫請けの小企業や子会社が第2第3の受け皿となって、各々内部留保を確保しようとする為、末端の従業員には回ってこない。
その為、結局は消費の拡大に結びつかない、というのが現状ではないだろうか。

そもそもこの理論(ダム経営理論)は経営の神様と言われた松下幸之助氏が昭和40年の大不況の折、発表した経営方針を参考にしたものと思われる。
経営の観点からみて内部留保を多く確保する事によって、外部的な諸情勢の変化にさほど翻弄される事無く経営の安定が見込める。経営する側にとっては実に有難い理論といえる。
確かに以前の大企業は企業の持つ社会的立場(社会貢献)を充分に理解し、社会に対する貢献度も大きかったように思える。しかしながら、昨今の大企業はどうだろうか、前述の3項目の影響が大きいのか、社会に対する貢献度や相互扶助と言った助け合いの精神が私にはどうしても観えてこない。

南アフリカのアパルトヘイト解体後の黒人社会の格差同様、日本でも益々格差が激しくなってきているのが現状のようだ。USスチールの創業者アンドリュー・カーネギーが、著書「富の福音」の中で「裕福な人はその富を浪費するよりも、社会がより豊かになるために使うべきだ」と述べている。
第2第3のカーネギーが現れる事を期待したいのだが・・・。

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