エッセイコーナー
69.浜人(はんもうど)の森2011を読んで  2014年1月31日

「生命尊重」の思想を基盤として、多くの村民の命を救った岩手県和賀郡沢内村(現・西和賀町)の名村長(故・深沢晟雄元村長)の生涯を綴った『村長ありき』の著者で、現一関市立図書館名誉館長の及川和男(80歳)さんが、この度、3・11の悲劇を忘れぬようにと、『浜人(はんもうど)の森2011』(本の泉社、四六判、128ページ)を著した。
及川館長は、他にも『鐘を鳴らして旅立て』『米に生きた男』など、児童文学やノンフィクション作品50作の著書を世に出している。

私は昨年の8・9月、2回に亘りエッセイ・随筆の書き方上達講座(一関図書館主催)を受講し、的確な指導を頂戴した。成果の程はさておき、非常に勉強になったことは謂う迄もない。
謂わば弟子の一人(勝手に思っている、ご迷惑だろうが!)でもある。

前出の著書は、宮古市重茂半島のある森に、齢(よわい)300年を越えるケヤキの老木と、津波で両親を失い、震災孤児となった洋人との心の会話をとおして、人間と自然との関わりあいを表現した児童文学作品である。
非常に読みやすく、自然への畏敬の念を想起させる作品の一つだと私は思っている。
3・11の大震災で、震災孤児となったのは岩手県だけでも94名、親と死に別れた遺児は481名にものぼる。
多くの子供らが最愛の親や家族を失い、今猶露頭に迷っているのが現状だろう。

「父ちゃんに会いたい、母ちゃんに会いたい」と、一人になった時は特にそう思うだろう。そんな愛惜の思いから、洋人らは老木のケヤキの傍に2本のブナの木を植樹した。1本は父ちゃん。もう1本は母ちゃんを想い、偲んで……。

洋人よ、君はどうして木を植えることを思いついたのだい?
「この前、ケヤキさんに、自分にできる何かをすることだって、教わったでしょ。おれ、考えたよ。自分は今何をしたいのか、考えたよ。
勉強することも、遊ぶことも、いろんなこともしたいけど、いちばんしたいことは、父ちゃんや母ちゃんに会いたいっていうこと。それがずっと心のおくの方にあるの。でも、それ、できないことだよね。
でも、その心、すてられない。困ったよ。こんなに考えつめたことなかったよ。それでさ、お墓サ会いにいったの。
でも、いやだった。悲しくなるばかりで。
元の家の跡にも行ったよ。でも、同じだった。お墓やガレキじゃだめなんだ。それでまた考えたよ。そのうちに、自分がケヤキさんに会いに来ると、なぜか心がおちくことに気がついて、あ、ここサ木を植えようってひらめいたの。生きてる木を植えたなら……」
  本文より

因みに、今回発行の「浜人(はんもうど)の森2011」の印税全てが、震災遺児・孤児を支援するいわての学び希望基金に寄付されるとのこと。


青海原
浜人の森


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