エッセイコーナー
854.加藤楸邨と一関  2023年9月10日

岩手県の玄関口と云われるのが人口11万1,932人(令和2年国勢調査時点)、古都みちのくの小都市、一関市である。
駅名の正式名はカタカナのノが入る「一ノ関駅」である。
世界遺産「平泉」と隣接し、新幹線等で訪れる場合は一ノ関駅で下車してから平泉に訪れるのが一般的だ。
直接、平泉に移動するのもいいが、折角なので一関の市街地をふらふらと散策していただきたい。
一ノ関駅の西口から改札を通り抜けると、一関の生んだ偉人、今年、国の重要文化財に指定された大槻三賢人(大槻玄沢・大槻磐渓・大槻文彦)の胸像が迎えてくれる。

そこから約3百メートル程西進すると、目前に一級河川「磐井川」を横断する「上の橋」が見えてくる。その百メートル程手前を右手(北)方向に進路を取ると、幅員8m(車道部分5.5m)、延長約400mの「中街通り」に入る。
地元では「歴史の小道」として市民に親しまれている。
道の周辺には国の有形文化財に登録され、尖塔が象徴的な日本基督教団一関教会。直ぐ北には旧沼田家の武家屋敷。もう少し北進すると左手に造り酒屋の世嬉の一酒造など、歴史的建造物が当時の面影を残しつつ、今も尚、街の象徴として存在感を示している。

なかでも、古色蒼然と存在感を誇る世嬉の一酒造の蔵群が左手に確認でき、敷地内に入ると、直ぐ右側には自家製の日本酒やビールなどを陳列する販売店がある。
中庭を挟んで左手にはひと際目につく石造りの建物が確認できる。国の指定文化財に登録され、その建築様式はイギリスのクイーン・ポスト (queen post) と云う梁組を取り入れ、漆喰や石組みとの和洋折衷の建築様式であり、東北一の大きさと云われる石蔵ホールクラストンが確認できる。その左隣りには世嬉の一レストラン。
そしてその左手前に存在感を誇る漆喰の土蔵が世嬉の一酒の民俗文化博物館である。

杉玉の架かる玄関を通り抜けると、奥に酒の民俗文化博物館があり、その左手前に「いちのせき文学の蔵」がある。
いちのせき文学の蔵は日本一小さな文学館として知られ、10坪程のギャラリーには島崎藤村や井上ひさし、阿佐田哲也や三好京三、及川和男を初め、一関ゆかりの作家や俳人12名の書籍や資料が展示されている。
そのなかに、父親の赴任(一ノ関駅長)の為、2年間の高校生活を一関で暮らした俳人「加藤楸邨」揮毫の掛け軸や原稿が展示されている。

当時、楸邨は啄木に心酔する一方、柔道や剣道、相撲などにも熱中する「文武両道」の中学生活を送ったそうである。
父親の転任の為、新発田に転居したが、高校生(当時、一関中学)時代の甘くホロ苦い思い出はいつ迄も心に残ったのではあるまいか。
楸邨の書屋号が「達谷山房」、戒名が「智楸院達谷宙遊居士」であることから、一関地方への愛着の深遠さが窺えるのではないだろうか。
楸邨は俳人として夙に有名だが、17文字では表現できない詠嘆的な心情を詠んだ歌集『加藤楸邨全歌集』も残している。

尚、「いちのせき文学の蔵」を運営するのが「一関・文学の蔵」と云う民間の組織である。
「学(まなぶ)、遊(あそぶ)、交(まじわる)、著(あらわす)、讃(たたえる)、動(うごく)」をコンセプトに、有志らが集って一関の文化伝承と知的発信を心掛け、会誌『ふみくら』発刊など、企画、運営に努めている。

追記
世嬉の一酒造が手掛けるクラフトビール、「いわて蔵ビール」のショコラスタウトが、英国開催「ワールドビアアワード2023」のスタイル別で見事第一位に輝いたとのこと。
この秋はかなり残暑が厳しいとの予想もあり、ギンギンに冷やしたショコラスタウトをグイッといきたいところである。
また、コロナ禍で中止となっていた吉田類さんご一行との「乾杯&トークショー」の再開を、切に願っている。

加藤楸邨「邯鄲やみちのおくなる一挽歌」  2022年1月5日
吉田類さんご一行「乾杯&トークショー」in世嬉の一石蔵ホールクラストン  2019年8月4日
吉田類「酔天宮トークショー」  2018年8月5日
ほろ酔い気分  2017年8月6日


フォト短歌「湯おと」  


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