エッセイコーナー
760.文豪たちの口説き本  2022年12月14日

図書館内をぶらついていると、ある本の題名に心が吸い寄せられた。
とは云っても、私には縁のなさそうな内容だが、心惹かれることは隠しようがない。
その本の題名とは『文豪たちの口説き本』である。
太宰治や中原中也、芥川龍之介や石川啄木など錚々たる文豪たちの恋文を編纂した一冊である。
名だたる文豪たちの口説き文句、さぞ、文学性の高い、馥郁とした香りを放つ文言が綴られているものと期待し、パラパラとページを捲り、目を通してみると、意外とそうでもなさそうだ。
総じてストレートな表現が多いように思える。

寄物陳思や比喩の類が多ければ多いほど誤解を招きやすい。
愛の告白はやはり直球勝負に限るのかもしれない。
感慨を深めながら頁を進めていくと、斎藤茂吉の章があった。茂吉から弟子の永井ふさ子への恋文である。
茂吉は妻との不仲もあり、27歳下のふさ子と出会い、恋に落ちた。ふさ子への恋文は100通以上にものぼるとのこと。
茂吉が55歳の時に書いた恋文のなかに、以下の記述がある。

一、歌は客観歌(山川草木河海)を作り下さい。
一、この冬は肝油あがって下さい。風邪で熱あらば臥床して下さい。
一、御手紙は一月に一度以上でも結構です。
一、僕は御返事さし上げません。若し必要あらば誰か門人の手を経ましょう。 万事沈黙のしずけさに入って、老の身をい
  たわりましょう。
一、僕のうけた侮辱なんかは何でもありません。決して御心配ありません。愛の力は宏大深刻です。また、清く正しきも
  のは常に勝ちます。今に御覧なさい。そして御心しずかに御自明愛下さい。そしてもっと肥って下さい。僕は老残の
  身をいたわりつつ、せい一ぱいの為事をして、この世を去りましょう。


「僕の受けた侮辱」とあるが、おそらく永井ふさ子の両親に不倫関係がバレ、窘められたのかと思われる。
しかしながら、清く正しく、純真無垢で一途な愛は、強く、永遠である。
斎藤茂吉記念館から、没後70周年、第49回斎藤茂吉記念全国大会と記念歌集投稿募集の案内が届いた。
はてさて、私にはあまり縁がないが、今回は相聞歌でも投稿してみようと思う・・・。


フォト短歌「待合室」 フォト短歌「土竜と紫陽花」  


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