エッセイコーナー
50.人跡未踏を極める  2012年12月15日

安倍新内閣のもと、デフレ脱却を掲げ大胆な金融緩和を図ろうとしている。確かに政治は大胆さも必要であり、特に景気の回復は、経世済民、国を治め民を救う上でも必要不可欠な政策といえる。ただ、それによってもたらされる物価上昇が、万民のプラスになるかといえば必ずしもそうとはいえまい。
仮に金融緩和により、円安などの輸出企業の増収増益が実現したとして、労働賃金を上げるといったダム理論の励行を予想通り行えば、ある程度の経済効果は期待できよう。

しかしながらそこで問題なのが水を蓄えるダムの高さだ。企業側が先行き不透明なその後の経済を懸念し、「内部留保を更に増やすべき」とダム高の嵩上げをやることにより、デフレ脱却を目指し、金融緩和にともない一気に刷られた紙幣、つまりダムに蓄えられた水が溢れ出なくなる。
仮に溢れたとしても、ほんの僅かな水、つまり労働賃金では、従業員や下請けの中小企業、或いは孫受けの零細企業にまで行き届かず、かえって裏目に出る可能性も否定出来ない。仮に計算どおりダムの水を放水したとしても、日本経済の輸出依存度は僅か十三%に過ぎない。殆どが内需依存だ。
結果的にはその借金を更に後世に背負わせることになる。その意味からも、一過性の金融政策とした上で、尚且つそれ以上の国際競争力を高める政策に努めるべきではないだろうか。

最近日本近海から新たな資源が発見され注目を集めているが、一般的に日本は鉱産資源が乏しい国だといわれている。
したがって競争力を高める上で、注目されるのが人材資源の活用だ。
特にインターネット関連を代表とするITの普及により、世の中の価値観が一変したのは周知の事実である。無限に広がる未知の分野の技術を高め、ある分野での先見性にともなう先駆者となることにより、莫大な富を生み出し、更には国益にもつながる。生憎今のところは西洋のソフトウェアベンダーが圧倒的優位に立っている。
そうした遅れから、日本も積極的に人材育成の場を広げ、強化する必要があるのではないだろうか。

現在経済産業省のもとで、「未踏IT人材発掘・育成事業」が平成一二年から進められている。
このプロジェクトはIT産業のみならず、あらゆる産業に欠かせない「天才的な人材」を見出し、育成する狙いを持ったれっきとした国家プロジェクトである。世界に先駆け、創造性の向上を図る上でもかなり有効的な支援制度といえる。
その制度を更に強化し、IT分野のみならず世界屈指のクリエーター育成を図ることにより、「技術大国にっぽん」の再興を目指すべきではないだろうか。歴史的にみて、IT分野を普遍的なものに成長させたのは企業でもなく国家でもない。
「オタク」と称され、その中でもごく少数の独創性を持ち合わせた天才たちである。

彼らは、単なる知識の習得といった現行の教育制度に縛られることなく、柔軟な発想のもとで、「無から有をなす」といった創造性を高め、脳の働きが柔軟な子供の頃からパソコンに慣れ親しんでいた。
つまりは、パソコン脳といった特殊な能力を頭で理解するのではなく、遊びの延長で自然に体得していったのではないだろうか。更に洞察性を深め、より専門性の高さを追求することにより、益々発展のポテンシャルが高まっていったのではないだろうか。
日本にはまだまだ隠れた才能豊かな人材が眠っている筈。激動する混迷の世界経済の中で、世界を席巻し、経済大国としての優位性を唱える上でも、個人のレベル向上がそのカギを握ると私は思っている。
その発掘を目指し、教育方針の見直しや環境を整え、官民一体となった支援を更に充実させることにより、日本経済の発展、ひいては日本の国益に大きく寄与するものと私は確信している。

未踏IT人材発掘・育成事業『Open Design Computer Project』>> (息子と友人の川田裕貴君)

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