エッセイコーナー
732.第42回中尊寺西行祭短歌大会  2022年10月1日

昨日、第42回中尊寺西行祭短歌大会が、無事、成功裏に終わった。
ひと頃は新型コロナ、オミクロン株の感染者数の増加により、今回の開催も危ぶまれたが、ここにきて感染者数も減少傾向にある。
2年程前の新型コロナパンデミック以前は、4月下旬が開催時期であり、しかも一日がかりだった。
今大会からは午後1時から午後4時半迄の午後のみとなったが、時間を短縮した割には内容の濃い大会となった。

私の役目は、選者坂井修一先生の送迎と司会進行。
以前は2人の司会進行だったが、午後のみとのことから、私一人でも問題ないと高をくくっていた。
しかしながら、やはり一人の司会は、不慣れなこともあり、思った以上に大変だった。
終盤の表彰式には、ベテランの斉藤のり子さんに応援を要請。入選歌の朗読をお願いすることと相成った。

大会会場は、中尊寺本堂裏手にある2020年4月完成の光勝院。
もし新型コロナの感染拡大がなければ、2年前の4月下旬、光勝院完成後の行事第一号として、西行祭短歌大会が担い、檜の新鮮な香りの中で行われる筈だった。
とは云え、完成から未だ2年。荘厳ななかに、寧ろ新鮮さや清澄感が更に増したなかでの開催だった。
そんな厳かな空間で大会が出来ること自体、大変有り難いことである。

午後1時より、西行法師の追善法要が営まれ、開会式が始まった。
大会実行委員長で一関地方短歌会会長の小野寺政賢さんの開会の言葉。続いて中尊寺の菅原光聴執事長のご挨拶。講師の紹介。そして「現代短歌と西行」と題して坂井修一先生の講演が始まった。
坂井先生による貴重な講演を拝聴し、今後の秀歌詠草の参考になったのではないだろうか。

講演の後、休憩時間を挟み、出詠歌の講評など約3年ぶりの歌会が始まった。
今回の出詠歌は121首。地元岩手や近県はもとより、遠くは熊本県や徳島県から秀歌が寄せられた。

大会結果は以下の通り。

中尊寺貫首賞
 夕陽背に今し現る立佞武多居合すわれらリリパット人         山口県 山縣 満里子
平泉町長賞
 コルヴィッツの彫刻にみる母の涙戦さの歴史は未だ続けり       千葉県 平野 則子
平泉観光協会会長賞
 年に一度妻の帰りてくる日なり赤き炎の迎え火を焚く         奥州市 羽藤 堯
岩手日報社賞
 短冊の歌は啄木「ふる里の」ホームに響く南部風鈴          一関市 千葉貞子
IBC岩手放送賞
 割り算の余りのやうな人生を病みたる夫は懸命に生きむ        熊本県 石橋 和枝
岩手日日新聞社賞
 遺構となりて校舎ありたりあの日々のごとくに子らの声が聞こゆる   宮城県 大和 昭彦
佳作賞
 菖蒲湯の香り失せたる仕舞風呂葉を折りながらゆるゆる浸かる     一関市 阿部 昭代
 太古より時の流れの中に降る椎の実の音ひそかなる秋         一関市 村松 雅子
 来客の予定はないが玄関に貼り紙しておく裏の畑と          一関市 千葉 利二
 亡き夫が掴み歩きし手摺りをば縋りて立ちて空を見上げる       平泉町 晴山 京子
 吹くほどに深まりゆける秋の色クラリネットの音やはらかに      青森県 木立 徹
 駅前の歩道をゆっくり進む娘よ白杖の音リズミカルなり        千葉県 上田 康彦
 この坂を下れば君の生れし町やがて見えくる紅花畑          奥州市 小野寺 正美
 山脈につづく牧原子と歩む流星群の空みつめつつ           盛岡市 藤井 永子

午後4時30分。寺崎敏子さんの謝辞並びに閉会の言葉を最後に、第42回中尊寺西行祭短歌大会の幕を閉じた。

慣れない司会に、事務所に戻ると疲れがドッと出て、バタンキューと相成った。
因みに私の拙歌は「トレンチに土嚢積み上ぐ少女らのか細き腕の静脈が浮く」
激化するロシア・ウクライナ戦争。開戦から既に7ヶ月が経った。
ロシア軍がウクライナに侵攻したのは未だ寒い2月。キーウ近郊ではロシア軍の侵攻に対して、塹壕を掘り、必死に土嚢を積む映像が流れていた。そのなかに、寒い時期にも拘わらず半袖姿で土嚢を運ぶ少女らの姿もあった。家族を守りたい、国の為にと必死になって土嚢を積み上げていた。その状況を詠んだ一首だった。                 


西行祭42岩手日日記事 フォト短歌「トレンチ」


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