エッセイコーナー
665.食料自給率ゼロ%  2022年2月13日

何気にYoutubeを覗いていると、気になるタイトルが目に止まった。
農家が田んぼの惨状を暴露 食料自給率0%へのカウントダウンが始まった」とのタイトルに興味がそそられ、早速覗いてみることにした。

2018年(平成30年)に減反政策が廃止となった。
以前は減反政策により米の過剰生産を抑制し、国の備蓄米の調整を図っていた。
減反の補助金により、多少なりとも救われていた米農家に対し、2018年(平成30年)の減反政策廃止以降も形を変えて支援があったが、それも昨年で打ち切りとなった。
その代わりと云っていいかは分からないが、今年度からコメの転作交付金を厳格化することになったようだ。

今後5年間、コメを作らない農地については新たな作物の生産が定着したとみなされ、交付金の対象から外されるとのことである。
転作品目として、麦や大豆、加工用米、飼料用米などがあるが、特に飼料用米は作柄や管理方法、収量により交付金の額が異ってくる。
「10アール当たり55,000円から105,000円の交付金が支給」とあるが、金額の違いは区分管理方式によるもので、前述の通り収量や規模によって異なる。一括管理方式では10アール当たり80,000円で統一される。

※区分管理方式とは、例えば100アールの水田の内、20アール分を「コシヒカリ」の飯米に、残りの80アール分を飼料用 専用米の「えみゆたか」を栽培する場合。
※一括管理方式とは、栽培品種は1種類のみ。例えば「コシヒカリ」のみの栽培により、飯米分も飼料用米も同じ品種で 栽培する場合。

つまり人の食べるコメよりも牛や豚が食べるコメを作る方が多くの収入が得られると云う訳だが、それには条件がある。
10アール当たり533kg以上の出荷が条件となる。
しかしながらその条件は冷涼地では難しい。
その条件をクリアするには、収穫量の多い飼料用専用品種「えみゆたか」や「みなゆたか」などの作付に転換する必要がある。

冷涼地である東北や北海道では二期作は無理、既存のうるち米で収量を増やすとなるとチッソ分の肥料を増量しなければならない。
となると肥料代は嵩み、倒伏しやすくもなる。倒伏すると発芽米などの被害粒が増え、等級が下がり、規格外になる場合もある。更には蛋白分が多くなると食味値も下がる。

ただ、既存のうるち米であっても、直播によって収量が増え、前記の条件を満たしたとの話を耳にしていた。
しかしながらその為には、直播用機械の導入や付属品等の投資が必要となる。会社化した大規模営農ならまだしも、特に中山間地域でのコメ作りは家族経営やひとり農業の小規模経営が殆どである。
また、前述したとおり、5年が過ぎると交付金は出ないとのことだが、再び以前のようなコメ作りを再開しようと思っても、色んな問題が噴出する筈だ。

例えば、飼料用専用品種の作付から一般のうるち米に戻す場合、それまで育てられてきた飼料用専用品種との混生が暫く続くと考えられる。刈り取った後の籾は必ず圃場にも残るからだ。
その為、出荷前の農産物検査の折、異品種米の混入により等級が下がる原因にもなる。
つまり、一度作付けを変更すると、なかなか元には戻せないと云うのが現状である。
以上の様なハードルを設けると云うことは、ふるいにかけ、ハードルを越せない生産者は辞めるよう促しているように思える。

確かに、私の周辺でもコメ作りを断念する人たちが出てきている。しかしながら、一度自然に返した圃場を、再び稲を育てられる環境に戻すのは至難の技である。
前述したように、人よりも牛や豚が食べるコメの方が高いなど、本末転倒な農業政策は止めるべきだ。
それよりも国の備蓄米の調整を図る目的なら、今迄通りの生産を維持し、備蓄米を確保した残りについては飼料用米として流通させ、その分の交付金を割合に応じて支給する方が、異品種米の混入を防ぎ、冷涼地や中山間地で疲弊する小規模なコメ農家も救われるのではないだろうか。
このままではコメの生産はジリ貧となり、コメの自給率はゼロ%になる可能性はゼロではないと、確かに云えるのかもしれない。

追記
以上の様な水田活用の交付金や、減反政策の廃止、或いは多年生作物に対する支援や交付対象水田の取扱いの見直しに対する不満は実に多い。
その根底にあるのは、金本位制当時の兌換紙幣的観念から未だに抜け出せない貨幣観や、マネークリエーション(信用創造)の不理解による過ちの結果であると云わざるを得ない。


フォト短歌「牛が大事か」  


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