エッセイコーナー
143.晩夏の渓  2015年8月22日

息子の帰省に合わせ、今年2回目の渓流釣りに行くことになった。
お盆が過ぎると急に涼しさが感じられる季節となる。秋は直ぐそこ。いや暦の上では既に秋か。
起床4時、辺りは未だ暗い。烏羽玉の漆黒の闇夜の中、手探りで部屋の明かりを探し、そそくさと身支度を済ませ自宅を出たはいいが、未だ行き先を決めていなかった。

取り敢えずはコンビニに立ち寄り、朝メシと昼ごはんを調達(お袋がおにぎりを握っていたが)。車に乗り込んで、
「さて、どの川に行く?」と息子に尋ねたと ころ、「今春行った場所はどうか」との返答があった。私はあまり良いポイントとは思っていなかったが、息子はかなり気に入っているようだった。「ほんとに あそこでいいのか?」と問うてはみたものの、世間は未だ夏休みの人たちも多い。大概の好ポイントは場荒れしている可能性が大だ。
結局は息子の言うとおりの場所に車を走らせることとなった。
ところが、道順を忘れてしまっていた。はてさて、「どっからいくんだっけ?」とお互いの顔を確認しながら、細まりつつある記憶の糸を少しずつ手繰りながら進むと、見覚えある岩山の景色が目に飛び込んできたのだった。

昨今の天気は注意が必要だ。
岩手県南の天気図には今のところ雨雲はなさそうだ。しかしながら山の天候は激変する。
上流部でゲリラ豪雨が発生したものなら、みるみるうちに水位が上がる。今夏の川遊びで救助のニュースが何度もあったが、渓流釣りの好ポイントは殆どがV字 谷である。ひどい時には鉄砲水となって襲われ、あっという間に流され一巻の終わりとなる。絶対に自然を甘くみてはいけない。

結局のところ、晴れのち曇り、風もなく穏やかで釣りにはもってこいの一日だった。
釣果は10匹ほど。型はイマイチだが塩焼きにすればちょうど良さ目のサイズである。
禁漁期まであと1ヶ月ちょっと。今回は息子のみの釣果であり、私は一匹も釣り上げていなかった。
撮影が優先とは言え、せめて一度ぐらい、「こつこつ」とくる、竿先から微かに伝わる「あたり」の感触を手のひらに味わってみたい。
ひとりの釣行となるかもしれないが、なんとかあと一度ぐらいは行ってみたいものだ。

「撮影優先」とは言ったものの、今回の撮影は入渓直後のものは一枚もない。と言うのも、車を停めた場所から川を迂回し、結構な距離を下流に徒歩で移動しな ければならなかった。それが為に、釣り支度に逸る心を静めながらそそくさと済ませ、入渓地点の下流部へと足早に急いだ。
おあつらえ向きの好ポイントが目の前に飛び込んできた。
日の出から多少時間が経ってはいたが、先行者はいないようだ。
今夏は雨が少なく、水量は期待できなかったが、澄んだ谷川の流れは、清らかで実に綺麗だった。

息子が一投目を投じたその時だった。
カメラが無いことに漸く気付いた。
はてさて、今更ながら戻るのは大変である。スマホのカメラでもいいかと思い、ふと胸ポケットを探ったがそれもまた忘れてしまった。
残念なことに、朝まずめの一番良い時間帯に撮り損ねてしまったことは、返す返すも残念でならない。
結局午前中のみの釣行ではあったものの、久方ぶりの釣行に息子は満足の様子だった。
いつものように、感謝の意を込め、山の神、川の神に一礼ののち、帰路に着いたのだった。


 

釣りと山菜とキノコの日記帖                       夢うつつの釣行記(2015年5月5日)


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