エッセイコーナー
769.思い出の篠弘短歌実作講座  2023年1月8日

新緑のきはみに凱旋門となる日比谷通りに芽を噴くいちやう   『凱旋門』
幾百の戦車が下を過ぎゆきしや最上階のバーにわが酔ふ     『濃密な都市』
冬日さす珈琲カップの影のびて口閉ざしあふひとときもある   『日日炎炎』
消しゴムの音ねちねちと立たしめてこの炎日に身を炙りゐる   『日日炎炎』
老いそむることには慣れず左手に銀のパターを杖としてもつ   『司会者』
北上の講座にむかふ「やまびこ」に山桑の実が赤あか流る    『司会者』
                                    篠弘 詠 

元・日本文藝家協会理事長、日本現代詩歌文学館長であり、短歌結社「まひるの会」元代表の篠弘先生が、昨年12月12日に多臓器不全の為他界されたことを今更ながら知った。
残念であるとともに、恥じ入るばかりである。
先ず以て、御哀悼の意を表するとともに、心より篠弘先生のご冥福をお祈り申し上げます。

篠先生が日本現代詩歌文学館長の当時、9月10月11月と年3回の短歌実作講座が開かれた。
私は2009年頃から受講させていただくことになった。
最初は幾分緊張気味に受講したものだが、緊張感のなかにも和やかな雰囲があり、私は楽しみで仕方がなかった。
講座開催日には仕事を入れないようにと前もって調整し、欠席した日は一日も無かったように記憶している。

毎年、夏頃には日本現代詩歌文学館が募集をかけるのだが、私は真っ先に応募したものである。
講座は事前に各人2首✕3ヶ月分の合計6首を事務局に提出しておき、それに対して篠先生が添削されたものに、当日、助言や解説が加えられると云った形式で進められた。
時折、作歌当時の状況などの質問もあり、先生との問答に会場の笑いを誘うなど、それはそれで楽しい思い出である。
思い出は色々あるが、私が一番印象に残っているのが2011年11月の講義だった。

提出歌:みちのくのあじさいの里慕わしく『フラウマリコ』の艶やかに咲く

親類が営む「みちのくあじさい園」のことを詠んだ一首である。
篠先生曰く、「この歌はなかなか綺麗な一首ですね」との前置きがあり、「オッ、今日は褒められるぞ」と俄然期待が高まった。
ところが、ところがである、そんなに甘くはなかった。 
解説が進むにつれ、様子が一変し、違う方向に話が進んでいくではないか。

先生曰く、「慕わしく・・・は、女性が使う言葉であって、男性が使う言葉ではありませんね」
「この歌は男性が詠む歌じゃないね~」となった次第である。
もしこの会場に、私の為人を知る人物がいようものなら、最初はクスクスと小声で抑えるように笑うであろうが、直ぐ様それに耐えきれず、腹を抱えて大笑いするに違いない。
流石に、当の本人も吹き出しそうになった次第である。

とかく人間と云うものは、自分に無いものを求めたり憧れたりする生き物。
もし、私が添削をする立場だったとしたら、その一言を付け加えたいところである。
なので私は綺麗なものを求め、明媚なものに憧れるのである。
そして出来れば、今後は特に秀麗な歌を詠みたいものだと改めて思った次第である。
2019年の秋を最後に、篠先生の体調が悪化した為、それ以降短歌実作講座が開かれることはなかったが、もしまた彼の世で篠先生の講座が開かれるのならば、真っ先に応募したいと思う。

因みに、篠先生から添削していただいたフラウマリコの歌を探しているが、残念ながら未だに見つかっていない・・・。


◆短歌実作講座の様子などをサイト等に掲載した中から抜粋
 凱旋門                2019年10月19日
 平成30年度「短歌実作講座」     2018年9月21日
 篠弘館長の特別講義          2018年8月01日
 平成29年度「短歌実作講座」     2017年9月22日
 岩手県南紅葉真っ盛り        2015年10月31日
 雨また雨              2015年9月18日
 幻想的な寒き朝           2012年12月07日
 待望の篠弘館長短歌実作講座     2012年11月29日
 コルチカム             2012年10月19日
 赤とんぼ              2012年9月27日
 しゃりしゃりと           2011年11月18日
 古木の椈              2010年11月26日
 赤とんぼ添削編           2010年11月25日


フォト短歌「篠弘先生に贈る」

その他の写真>>


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